UNE FILM EST UNE FILM

映画は映画である。映画評、その他

私の好きなZORNの韻について

 ZORNというラッパーの凄さは私が語るまでもなく周知の事実であり、それどころか私がZORNにハマったのはごく最近のことであるから、私がZORNについて論じる適当な人物ではないことは承知している。しかし、それでもどうしてもZORNについて書きたくて仕方なくなってしまった。ハマった時期がいつであろうと、にわかであろうとなかろうと、何かを好きになってしまいその魅力を探究し始めれば、自分の考えを何らかの形で発信したくなるものである。ということで、本稿ではZORNの魅力、特にZORNの韻の魅力について、自分なりに紹介してみたいと思う。ZORNといえば韻、というほど、彼は韻を踏むラッパーなので、その凄さ・魅力については各所で散々語られていると思うが、もし本稿を読んで少しでも新しい気づきがあれば、私としても嬉しい限りである。

 

ZORNの韻は冷静にすごい

 ZORNは韻を踏みまくる。まさに「空が青いのと一緒」*1なくらいの常識であるが、実際韻の踏み方がすごい。それは踏む文字数の長さや、踏む数だけにとどまらない。気づくと感動してしまうような踏み方をするのだ。しかしあまりに踏みまくるため、韻のテクニックの基準がインフレ化してしまい、「ZORNならそれくらい余裕でしょ」となりかねない。そこでまずはそのすごさを冷静に、客観的に讃えていきたいと思う。

 

まずは、“Don't Look Back”より。


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この人生は選択の連続 ペンはトレンドより生活と連動

 「選択の連続」と「生活と連動」で脚韻で踏んでいるだけでなく、中間韻として「トレンド」でも踏んでいる。しかも「トレンド」と「と連動」は子音まで一致しているという凄さ。これにより韻の聴き心地(略して「韻心地」とでも言おう)がとても良くなっている。こういうのをあまりにしれっとやってくるから恐ろしい。

 

もうひとつ。KREVAへの客演“タンポポ”より。


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やがては枯れ 綿毛 でも離れた場でまた芽出す

 hookの部分のリリックだが、一聴してなにが起こっているのかわかりづらい。でもよくみてみると以下のようになっている。

やがて/は枯れ /綿毛 でも/離れ/た場で/また芽/出す 

 「やがて」「は枯れ」「綿毛」「離れ」「た場で」「また芽」すべて"aae"で踏んでいるのである!これの何がすごいかって、たとえばその前の「常にそう ステージ上 有言実行 胸に問う 夢 理想」のように単語で踏んでいるのではなく(無論、これも全踏みで物凄いのだが…)、文の塊の中で踏んでいるということである。だからもはや注意して聴かないとピンとこないレベルで滑らかな韻心地が生み出されているのである。どうやったらこんな韻が思いつくのか、常人にはちょっとわからない。

 

韻と韻が織りなす意味

 Creepy Nutsオールナイトニッポン0(ZERO)」にZORNがゲスト出演した際のトークで「韻の飛距離」という概念が紹介された。その意味は、R-指定いわく「「A」という言葉と「B」という言葉で踏もうとしたら、「A」と「B」の言葉の響きは近ければ近いほどいい。でも、その内容がかけ離れていれば離れているほど、韻として面白い」ということらしい*2。そこでとりあげられているのは、”Have a Good Time feat.AKLO”の「表参道のオープンカフェよりも 嫁さんとの醤油ラーメン」というラインである。このラジオ以来、韻の飛距離という言葉はすっかり人口に膾炙して、人々が韻を語るときにしばしば言及されるようになった。他にも韻の飛距離でよく挙げられるZORNのラインでは、” Rep feat.MACCHO”の「俺は滝川クリステル でもとしやがマリファナ売り付ける」がある。確かに、「滝川クリステル」と「マリファナ売り付ける」で韻を踏める人間はZORN以外存在しないだろう。

 しかし、ZORNライミングが織りなす言葉と言葉の反響は、このような「韻の飛距離」だけではない。

 

例えば、”Walk This Way feat.AKLO”にはこんな韻がある。


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ラッパーでパパ 二足のわらじ 一つの形 急ぐのは無し 一方通行な旅 もう遠くへ来た

 この四連続のライミングで特に注目したいのは最初の二つ「二足のわらじ」「一つの形」である。「ラッパー」であり「パパ」であるというZORNが繰り返し主題にしてきたテーマーーだからこそ”my life”で「洗濯物干すのもHIP HOP」とラップすることができるのだーーがこの韻に完璧に込められている。「ラッパー」と「パパ」の「二足のわらじ」が彼の人生の「一つの形」なのだ。さらに「二足」と「一つ」という数字がこの韻に対句的な意味を持たせており、修辞技法として極めて高度なことを行なっている。しかも当然かのように一文字も踏み外していない。あまりに凄すぎる。

 

もうひとつ紹介する。”No Pain No Gain feat. ANARCHY”


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No Pain No Gain ドン底の光景 本物の条件

 これもこの曲の主題がそのまま凝縮されたような見事な韻である。「ドン底の光景」を見てきたことこそが「本物の条件」ということである。二つの言葉が対比的であり、韻からイメージがとても立体的に立ち上がってくる。そして、これも踏み外さず全踏みの韻である。もはやそれが標準のようになってしまっているが、「光景」と「条件」の四文字踏みだけでも通常なら韻として十分である。

 

短い韻でもすごい

最後に紹介したいのは、”最ッ低のMC (2014 Showa Remix)”から。


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勉強ダメ 運動ダメ でも言われたんだ ラップはヤベェ

 たった二文字でここまでかっこいい韻があるだろうか?これは自分だけだろうが、モハメド・アリの世界一短い詩といわれている "me, we"をどことなく思い出してしまう。それほど、短いからこそかえってその詩的さが際立つ韻だと思う。この韻の良いところは「ヤベェ」という言い方で、仲間内での評判というのを上手く表現しているし、勉強も運動も「ダメ」だったZORNがラップに賭けるようになった原点を感じ取れる。バースの最後に二文字の韻をパンチラインとして持ってくるなんて、なんともニクイ。

 

リリシストを体現するラッパー

 こうしてみると、ZORNは踏む韻の文字数、数、「飛距離」だけでなく、いくつもの多面的な韻の魅力を発揮しているラッパーである。文字数や数だけでない踏み方の巧妙さが生み出す「韻心地」もその一つであろう。またそれ以上に特筆するべきは、韻になる言葉同士が反響しあって立ち上がる意味であったり、イメージが浮かび上がるワードセンスであったりといった、詩的な力強さである。そして、それこそが「リリシスト」の称号に相応しいラッパーの条件といえるのかもしれない。おそらく現在の日本のHIP HOPシーンは、かつてないほど才能あるラッパーに溢れている時代だと思うが、そんな中でもZORNほど韻の踏み方と詩的なスキルを持つラッパーは存在しないと、管見ではあるが私は考える。